Page 43 - 雑木林の自然誌
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原因
カシノナガキクイムシ(以下「カシナガ」)が、ナラ・シ イ・カシ類の樹幹に潜入し、病原菌(ナラ菌)を樹体に感染 させ、菌が増殖することで、水を吸い上げる機能を阻害して、 枯死させる萎凋病。
カシナガと病原菌(ナラ菌)による発生メカニズム
カシナガ(体長約5mm)の雌の背中にある穴(マイカン ギア)に、ナラ菌の胞子が含まれた状態で、幹の中に持ち込 まれる。このナラ菌は、カシナガが掘った坑道を伝って蔓延 する。その結果、樹体がナラ菌の蔓延を防ごうとして、通水 機能を止めようとする。感染した部分の細胞が死ぬと道管が 目詰まりを起こすため、樹液の流動が止まり水不足で葉が萎 れる。7月下旬頃から8月中旬にかけて、葉が変色し、萎れ始 めてから1~2週間で、急激に枯れ死する。
カシナガは大径木ほどたくさん羽化する。新成虫は、6月 頃ナラ菌を持って脱出し、健全なナラ類に飛来、穿入し、被 害が拡大する。カシナガは枯れた木から生きている木へと菌 類を運び、特に高齢になったナラ林は被害が激しい。
全国の被害状況
昔から被害が単発的に発生していたが、1980年代に入 り日本海側で被害が集団的に発生するなど、被害範囲は拡大 し、2011年には被害量(被害材積)がピークになる。そ の後は減少傾向にある。
平成29年度の全国の被害は、約9万m²で対前年度比11 0%。被害が発生したのは32府県に及ぶ。また、兵庫県の 被害は約9400m²になり、対前年度比194%と急激に増 えている。
被害拡大の要因
ナラ類の高齢化、大径化により、カシナガが繁殖しやすい
森林環境になったことが、被害拡大の要因と考えられる。 また、薪炭林や松くい虫被害跡地等が放置された結果、カシ ナガの繁殖に適した森林が増加したため、全国的な被害に発 展したのではないかと考えられる。
被害木の特徴
• 木の根元に大量のフラス(カシナガが孔道を掘った木屑や 糞などの混ざったもの)が落ちている。
• 幹に直径約2mmの穴がたくさん空いている
• 葉が赤褐色や茶色に変化するが、落葉はしない。
• 梅雨明け後から急に枯れ始める。そのまま放置すると、落
枝や倒木の危険がある。
防除方法と対策
ナラ枯れ(集団枯れ死)解説
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予防として、1樹幹注入(殺菌剤を注入し、ナラ菌の繁殖 を防ぐ) 2被覆剤塗布 3ビニール被覆等の処理を行う。 この予防処置は、開葉期から成虫脱出までの4~5月に実 施する。 駆除として、1伐倒⇒被覆燻蒸、2伐倒⇒焼却、3立木・ 燻蒸⇒伐倒、4誘因捕殺等の処理を行う。
被害木内のカシナガが羽化脱出前に薬剤による燻蒸、また は焼却。 枯れ死木が発生した場合、落枝や倒木の危険があり、速や かに伐倒処理を行う。 ナラ枯れが発生した森林では、猛毒性の「カエンダケ」が 多く発生することが確認されている。 被害木の周辺で天然更新が行われることから、山が丸裸に なることはない。このため、何もせずに放置という選択肢 も考えられる。 伐採して若い林にする。枯れる前に資源として使う。 *里山は伐採して若い林にすると病気で枯れない。
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